『スマート・テロワール』のすすめ

松尾雅彦著:AFCフォーラム2015 リポートより

 英国人女性イザベラ・バードは、明治11年に外国人がまただ足を 踏み入れたことのない東北地方を馬で縦断し、その時訪れた山形県米沢地方について次のように記録しています。
「米沢平野はまったくのエデンの園だ。鋤のかわりに鉛筆でかきならされたようで、米、綿、トウモロコシ、煙草、麻、藍、豆類、茄子、くるみ、瓜、胡瓜、柿、杏、柘榴(ザクロ)が豊富に栽培されている。繁栄し、自信に満ち、田畑のすべてがそれを耕作する人々に属する稔り多きほほえみの地、アジアのアルカディアなのだ」。(イザべラ・バード『日本奥地紀行』)

  現在の日本の農村からはイザベラ・バードの見た五穀豊穣の美しい農村の面影は、ほとんど喪われています。戦後70年、全国の農家はこぞって米作りに集中し、しかも消 費者の米離れで水田は過剰になり、全国に休耕田や耕作放棄地ができました。まさに「田園まさに蕪(アレ)なんとす」(陶淵明『帰去来辞』)です。

私は『スマート・テロワール』(美しき豊穣の村)を著し、荒廃した農村に昔は当たり前であった彩りあふれる風景の回復を提唱しています。

 スマート・テロワールへの道筋は休耕田を畑に変えて、小麦、大 豆、トウモロコシ、ブドウ、ジャガイモなどの畑作物栽培に転換し、同時に牛や豚を放牧飼育することを端緒とします。
 ついで、畑作と畜産を原料とする、みそ、しょうゆ、パン、麺、ハム、ソーセージ、 チーズ、ワインなどの加工場や醸造所を呼び込みます。
 さらに、それらの食品の地域内流通業を復興し、近隣の地方都市を含めた人 口10万〜70万人の自給圏たるスマート・テロワールを形成していくのが、私の構想です。
 スマート・テロワールが全国に100カ所ほども構築できれば、食料自給率の大幅改善と、GDPの2〜3%ほどの押し上げが可能になるでしょう。そして、何よりもイザベラ・バードの見た逝きし日の農村の面影が現実のものとしてよみがえることが期待できると考えております。

松尾雅彦氏(まつお まさひこ1941年〜2018年2月)紹介
スマート・テロワール協会創立会長。NPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長。
慶應義塾大学法学部卒業。67年カルビー 株式会社入社。92年同社社長、2006年同社相談役に就任。08年第41回食品産業功労賞受賞。新品種産業化研究会(JATAFF内)会長。
著書に『スマート・テロワール 農村消滅論からの大転換』(学芸出版社)。
イザベラ・バード(1831年〜1904年)紹介(nippon.comより)
イザベラ・バードは、イングランド北部ヨークシャーのバラブリッジに牧師の2人娘の長女として生まれた。54年から亡くなる3年前の1901年まで海外の旅を重ね、その舞台は南米以外の全大陸に及んだ。

78年(明治11年)4月、イングランドを出て、大西洋・北米大陸・太平洋を越え、5月横浜に着いたバードは、7カ月を日本に滞在した。目的は、旅を通して本当の日本を知り、記録に残すこと。この目的はキリスト教普及の意義を念頭に置き、その可能性を探ることと結びついていた。
日本での旅の記録は、全2巻800ページを超える大著『日本の未踏の地:蝦夷の先住民と日光東照宮・伊勢神宮訪問を含む内地旅行の報告』(「日本奥地紀行」は日本語版の名称)としてまとめられた。

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