水田の畑地化と輪作のモデル

盛川農場のスマート・テロワール

 岩手県花巻市の「有限会社 盛川農場」は、水稲、麦、大豆を中心に延べ92ヘクタールの土地利用型農業を展開する。396枚(平均20アール)あった水田を合筆し、140枚(平均50アール)に作り替えた。3分の1は、乾田直播による水稲、3分の2は、子実トウモロコシ、小麦、大豆を輪作しているが、畑作の技術・機械体型にすることにより、生産コストの大幅な削減と省力化を図っている。

 乾田直播には2007年から取り組んだ。水田専用機械は不要であり、畑作と一体なので、機械と設備(貯蔵、乾燥、選別など)の稼働率が高い。これを息子夫婦と家族だけでこなしている。倉庫を覗くと、外国製の大型機械が格納されていた。

◆ 乾田直播栽培「プラウ耕・グレーンドリル播種体系」

 盛川農場は、乾田直播栽培「プラウ耕・グレーンドリル播種体系」による安定生産に取り組む。全体を四分割し、それぞれに輪作体系を組み、年間を通して機械使用効率の良いローテーションを組んでいる。輪作が増収を生んでいるという。「技術革新しないと産業としての農業は生き残れない」と、代表の盛川周祐(しゅうすけ)さん(68歳)。(写真と図は「NOSAI」2012年5月2週号より)

 子実トウモロコシの栽培は、月間『農業経営者』の出版社農業技術通信社の昆吉則社長にそそのかされてと笑っていたが、5年前から始めた。すごいのは、その販売戦略だ。全く面識がなかったそうだが、地域ナンバーワンの養豚業者に目を付け、直接「これを使ってくれないか」と売り込みに行ったという。

 それを買い上げた高源精麦の高橋誠社長がまたすごい。独自の飼育法を開発して、白金豚(プラチナ豚)という銘柄豚を海外にまで輸出している。(下段にホームページ掲載)筆者は視察に行った際、高橋社長が経営しているレストランで食したが本当に素敵な味だった。

◆ コストダウンと品質向上の両立

 耕地の大型化、畑作機械体系により高効率化・省力化、輪作、子実トウモロコシの導入により、全てのコストは大幅に下がり品質も向上した。2011年に行った東北農研センターや岩手県農業研究センター(北上市)実証試験では、盛川農場の乾田直播での10アール当たり労働時間は約4.8〜6.4時間(東北の平均は24.5時間)。子実とうもろこしでは10アール当り1.2時間だという。


◆ 盛川農場の60kg生産費

 因みに昨年の米生産原価は60kg当り6,587円。現在のJA買上米価は、12,000円から13,000円なので、約半値である。FAO(国連食料農業機構)の2020年5月のカリフォルニア米のデータを見ると、60kg当り4,300円とあるので、品質や輸送コストを考えればほぼ同等と見て良いのでは。米以外の子実トウモロコシ、小麦、大豆についても同様なことが成り立っている筈である。

 盛川さんは言う。「農家は一般的に反収=売上額のことを気にするがそれは間違いだ。大事なのは売上から原価を引いた利益だ。売り上げが大きくても赤字では何にもならない。子実トウモロコシなど、売上額は少ないが、手が掛からないので利益になる。農業も他の産業と変わらない同じ経済原理の上にあると言うことでしょう。」

 盛川さんの表情には、自信と余裕が現れていた。

プラチナポーク「白金豚」公式サイト(高源精麦株式会社)

https://meat.co.jp/

【 この活動は、スマート・テロワール協会(東京)から支援と指導を受けております 】

Copyright © 認定NPO法人 信州まちづくり研究会
All Rights Reserved.